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2025.04.10

次世代の組織づくりを経て~建築設計業界の未来へ向けて~

建築士事務所協会の青年組織づくり

私はこれまで、全国の建築士事務所が加入する「(一社)日本建築士事務所協会連合会」※以降「日事連」 の地方組織としての役割を担う「一般社団法人(一社)栃木県建築士事務所協会」の理事として、長年活動を行ってきました。

建築設計業界をとりまく環境は、法改正や人口減少、働き方改革、IoTの進歩などにより、年々変化しています。

現在登録されている一級建築士数はおおむね37万人、そのうち建築士事務所に所属して実際に設計の実務に従事している建築士(所属建築士)数は約14万人と言われています。所属建築士数を年代別にみると最も人数の多い60代が約41,000人、それに続く50代が37,000人であり、50代以上の層が一級建築士全体の65%を占めています。一方で、30代は11%、20代に至っては1%未満にすぎず、業界全体で平均年齢の極端な高齢化の傾向がうかがえます。

そのような状況の中で、全国すべての都道府県に地方の単位会が組織されているにもかかわらず、青年部(青年組織)を設置している組織は一部に過ぎない現実に、私は次世代の組織を持たない業界団体は衰退していくのではないかと、強い危機感を持たずにはいられませんでした。

建築業界が直面する課題は多岐にわたります。技術の進歩、社会の変化、人材不足――これらを乗り越え、より良い未来を築くために、私たちは2016年に志を同じくする仲間とともに「次世代に向けた組織つくり」を立ち上げるに至ったわけです。

 

変わりゆく建築設計業界

かつての建築設計事務所といえば、いわゆる“職人の世界”でした。
先輩が後輩を育て、経験を積んだ者が権限を持つ。もちろん、それが間違っていたとは思いません。

しかし、以前はクリエイターとして人気の高い就職先だった建築設計事務所も、中小規模の設計事務所が多くを占めているなどの現状から、安定思考の強いZ世代の若者からは就職先として選ばれにくい職種となってきています。これからの時代、従来通りのやり方だけでは通用しないのも事実です。

建築設計における技術の進化は目覚ましく、BIM(Building Information Modeling)やAI、IoTといった新技術が登場し、設計のプロセスそのものが変わりつつあります。さらに、人口減少や法改正に伴う柔軟な対応も必要となり、また、働き方改革などの流れから、長時間労働の是正や、より多様な働き方が求められるようになりました。

こうした変化の中で、私が強く感じたのは、「組織のあり方を見直し、未来への道を繋げなければならない」ということです。

建築は一つとして同じものがない創造的な仕事ですが、その現場を支える組織運営も、決して型にはまらない柔軟性と、確固たる信念が求められます。

これまでのやり方だけを守るのではなく、諸先輩方が築き上げた仕組みを尊重しながらも、時代に適応し、柔軟に変化していく組織へ――そのために必要だったのは、単なる制度改革ではなく、これからの時代を担う青年世代が、地域を超えて協力していける環境をつくりあげることでした。

 

青年世代間同士でのつながりを強めたい

「日事連」は、北海道東北、関東甲信越、東海北陸、近畿、中四国、九州・沖縄の6ブロックで構成されています。

2016年時点では、青年組織を設置している都道府県協会は10団体を数える程度で、青年組織が設置されていない単位会の方が多い状況でした。
そこで、私が準備委員長となり、次世代の組織作りの一柱として仲間たちと取り組んできた「青年話創会」で、少しずつ全国の単位会の青年世代間での横のつながりを強めていったわけです。

『話創会(わそうかい)』は、次世代が気軽に参加できる場を作り、集うことで『話』の中から新たな『創造』を目指していくことを目的としています。また、単位会が『輪(わ)』となり、未来に向けて協力しながら柔軟に対応していくという意味が込められています。

「青年話創会大会」は、2016年の東京から始まり、2017年に和歌山大会、2018年に再び東京大会、2019年に福島大会で開催。2020年と2021年は残念ながら新型コロナの影響により中止となったものの、ようやく熾(おこ)した火を消さないために、青年世代が連携して地道な活動を続け、2022年に熊本大会、2023年に鳥取・島根大会、2024年に福井大会と、昨年の福井大会をもって、全国6ブロックのすべてでブロック内に「青年組織」を設置することが出来ました。

全国各地で開催される『青年話創会大会』で意見交換し、また切磋琢磨することで展望を広げ、少しずつ同世代間の結束を強めており、その中で、建築設計事務所の魅力を再発見・創造し、次世代を担う人材の持続的な育成に目を向けています。

次世代組織への礎

時を同じくして、2016年から2024年まで青年部連絡協議会の主査として8年の歳月をかけ、ようやくすべてのブロックに次世代組織の設置を完了しました。8年前に10団体ほどから始まった青年会ですが、2024年には39単位会への設置が完了し、全単位会への設置もあと一息というところまで来ています。

ここに至るまで、同じブロックの中でも、移動に掛かる時間や費用といった物理的な問題から、各地域の風土による建築に携わる温度感の違いなどの心理的な問題まで、様々な困難に直面しました。

しかし、奇しくも新型コロナの蔓延により従来の「移動を伴う対面での打合せ」だけに縛られない、新たな打合せスタイルとして、リモートワークやWEB会議が活用されるようになったことで、距離と時間の概念に大きな変化が生まれました。

これまで、ブロックとしての範囲が広く遠距離の単位会も存在することから、交通網や地理的な問題もあり都県同士の方向性を一致させることが難しいという課題も抱えていた「関東甲信越ブロック」でも、2024年の関東甲信越ブロック協議会で青年組織が正式に承認されるに至ったのです。

これには、1年前から準備会が発足し準備を積み重ねてきましたが、対面での協議はもちろん、リモートでも、青年組織の「背景、目的、成果」について協議を重ねられたことが、大きな後押しとなりました。

まだまだ道半ばではあるものの、全国6ブロックすべてに次世代組織を設置することができたことで、10年先を見据えた組織の礎を築くことができたのではないかと感じています。8年前の設立に向けて歩みだした当時を思い起こすと、様々な事情がありながらも、「ようやくここまで来たか」と、感慨深い気持ちであります。

 

組織づくりの先にあるもの

もちろん、まだ道半ばです。新しい組織づくりには時間がかかりますし、課題も次々に生まれてきます。しかし、それでも確信しているのは、「人が成長し続ける組織こそが、強い組織である」ということです。

建築設計は単なる設計作業ではなく、「士業」として重要な責任を背負い、社会をつくる仕事です。そのためには、私たち自身が変化し、進化し続けることが不可欠です。

私はこれからも、変化を恐れず、新しい挑戦を続けていきます。そして、この業界の未来をともに創っていく仲間とともに、未来の建築設計業界が、より良いものになるよう、「持続可能な建築設計業界の実現」を目指して走り続けます。

△近畿ブロック協議会青年部会2023夏期例会【フォーチュンガーデン京都】
 

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